よくわかる水素文明、4回目は情報洪水とマックスウェルの悪魔。そして近自然学とタレント・プール・システムについてです。
物理学者の都筑卓司氏は1970年刊行のマックスウェルの悪魔―確率から物理学へにおいて、情報の激増による人類滅亡を予言していました。
情報の激増
自転車に乗りつけていたものがオートバイにまたがったとき、目の前にある速度メーターが珍しく感じられるものである。自転車のような道具と違って、いかにも器械だなあという感じがする。これがさらに自動車となると計器はもっと多くなる。さらに、ワイパー、チョーク、ヘッドライトなど押しボタンの数も増える。運転免許とりたての頃は、これらの計器や器械はすべてが運転者である自分の支配下にあると思うと、嬉しくなったりする。
ところが飛行機になると計器の数はかくだんに多くなる。リンドバーグの頃の飛行機ではそれほどでもなかっただろうが、複葉機から単葉機へ、さらにジェット機へと発達するにつれて、操縦席の前にある計器の数はどんどん増える。すらりと並んだたくさんの丸いメーターを前にして、ジェット機のパイロットはいったいどれを見ているのかしら、などと素人は心配になる。
結局言いたいのは、乗り物が発達するにつれて、操縦士の判断すべき材料が加速度的に増えていくということである。
乱雑な状態を「エントロピー」、整理された状態を「反エントロピー」と呼びます。エントロピーは情報理論では「情報量」と呼びます。人口が増え、文明が発達するにしたがって、エントロピーが増え、1人の人が処理する情報量が増えるというわけです。
サラリーマンは反エントロピーを提供する
「自由エネルギー」は「全エネルギー」と「反エネルギー」の項の和である。体系は温度の低いときには全エネルギーの項が強く効くが、高温になると反エネルギーの項の方が重要視される。このことは人間の集まりである社会についてもいえそうである。
太古の昔から第二次大戦頃までは、エネルギーが問題であった。いかにして自然界から、人類に役立つエネルギーを引き出すかに人々は知恵をしぼった。風車、エンジン、電力などにより、ほぼその目的は達成された。
今日の人間はどのような性質の仕事をしているか。昔はもっこを担いだり、大八車を押したり、荷物を運んだりの力仕事をした。人に使われる場合にも、雇い主に対してエネルギーを売ったのである。ところが今は違う。社員は会社に対して反エントロピーを提供しているのである。
エネルギーを得るために人を雇ったのでは会社は大損である。力仕事は機械にまかせておけばいい。企業が大きければ大きいほど、会社は膨大なエントロピーをかかえる。販売会社なら、客と接する社員は、いかに品物を並べたら、顧客にどんな態度でどのように説明したら……等々についての判断を提供し、その見返りに月給をもらう。課長クラスになれば、販売価格をいくらにするか、仕入れはどれくらいに抑えるか、等の知識が必要になる。決まっていない事柄を、課長の頭脳によって判断していくのである。首脳部は会社の経営全般に対しての処置を検討していく。誰もが持ち場持ち場に応じて、反エントロピー増大に努めているわけである。
情報量の少なかった昔は仕事といえば力仕事でしたが、情報量の増えた今では情報の整理が主な仕事です。マックスウェルの悪魔というのは、乱雑な物を整理してくれる生き物の名前です。
人類滅亡の予言
人間は反エントロピーを創造する生きものであることはすでに述べた。この意味では、人間とはまことにすぐれた生存物である。ことによるとマックスウェルの悪魔という神秘的な働きをする小動物が宿っているのかもしれない。
ところが、賢いはずの人間が、集団的な営みをすることになると、エントロピーは増えるばかりである。ことによると人間の賢さが、エントロピー増大にかえって拍車をかけているのかもしれない。マックスウェルの悪魔は、社会的エントロピーの増大にはまったくそっぽを向いている。
人間個人は反エントロピーの創造者であっても、これが集合して派閥、国家、民族などのグループが、ひしめき合い乱れまじるとき……反エントロピーの創造能力はその中に埋没してしまう。人口増加、産業の発達、消費欲の激増は必然であり、これを後退させることは大気中に真空部分のできるのを待つと同じほど、あてのない期待である。
統計力学の権威である東京大学の久保亮五教授は座談会で
「人類の寿命は、あと200年から300年くらいではないかと思う」
と発言されている。2万年の間違いでははいか、と思われる読者も多いだろう。2万年でも2000年でもない。200年である(ここの箇所に限り、特に念入りに校正したから念のため……)。現在から200〜300年……逆にさかのぼって計算すれば徳川中期になる。
200年は甘い見通しだったようです。情報機器の発達などがあり、1970年からわずか30〜40年で情報洪水症候群という病気が現れました。責任感の強い人ほど、かかりやすい病気です。
情報洪水症候群は上記のような最先端の情報を求めなくてはならない立場の人、過度に完璧に物事を成し遂げようとする人、凝り性・几帳面な人、上昇志向・出世欲が強い人などが情報過多の影響を受けやすいとされています。
完璧主義者は手に入る全ての情報に目を通そうとします。全ての情報を集めないと適切な判断ができないと感じます。また、あいまいな情報が多いので、たくさんの情報を集めないと情報の正確さがつかめないと感じます。しかし、全ての情報に目を通せるわけもなく、また、情報をたくさん集めれば集めるほど様々な視点が出てくるなどして、どれが正しいのかわからなくなってしまい、判断が出来なくなってしまうことにもなりかねません。そして、判断が出来ないのは自分の能力のなさのせいだと感じるようになってしまいます。
問題点は1970年にマックスウェルの悪魔が提示していました。「人間個人ではエントロピーを減らしたが、集団になれば争い合いエントロピーを増やしてばかりいる」ことです。
ならば、集団でエントロピーを減らす理論を確立し、それに合う教育で、それを実行できる人を増やせば良いということです。
連山コラムニストの山脇正俊さんが、近自然学の一環としてタレント・プール・システムを提案しています。
近代のシステムは縦割りピラミッド型の官僚組織で、上から下に命令は伝わるが、下の問題意識は上に伝わらない組織です。つまり、上の欲望を下に押し付ける仕組みでした。情報は誤報も多いですが必要な情報もあります。見ざる言わざる聞かざるでは、本当の危機に、迅速柔軟に対応することができません。これでは情報洪水を乗り越えられません。

官僚制はエントロピーを減らす事ができない古いシステムであり、エントロピーを減らす事ができる新しいシステムに切り替える必要があります。パラダイムシフトです。
タレント・プール・システムでは、人材をプールに浮かべたピンポン球のようにフリーにしておき、集合知により情報の収集、選別、錬成を行います。行動が必要となった時には、プロジェクトリーダーが最もふさわしい人材を集めて行動します。目標を達成すればフリーに戻ります。
遠隔教育の秋月と御蔵も、タレント・プール・システムになっています。日夜、テレビ会議やチャットで集合知を練っています。 集合知には、日々の努力が重要です。
タレント・ プール・システムの集合知の真価を知りたい方は、2009年12月30日(水)東京国際展示場 コミケット77「オ」ブロック10b 橘研究所、または、2010年1月10日(日)インテックス大阪 COMIC CITY 大阪77 に参加し、その目で確かめてください。
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松浦彰夫 拝











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